アイドル戦国時代という呼び方もすでに古くなりつつある昨今。音楽番組やバラエティ番組メディアを見れば新しいアイドルグループが次から次に現れる。
地方に目を向ければロコドル(ローカルアイドル)が全国各地に、ゆるキャラ以上の勢いで増殖している。
そんな中気になったこのつぶやき
アイドル・カルチャーはロック・カルチャーを受け入れるのに、その逆がないというのはロックが面白くない要因のひとつだと思います
— 加茂啓太郎 Keitaro Kamo (@keitarokamo) 2016年9月9日
この加茂さん、ウルフルズや氣志團、ナンバーガールなど日本を代表するロックバンドのプロデューサーとして知られている。そんな人のつぶやき。
「ロックが面白くない」
こう聞いて、どう感じるか。
正直、思い当たる節はある。
もちろん、新しいバンドはたくさん出てきているし、ベテランでも元気なバンドも多い。だが、「面白さ」という点ではどうか。
そもそも何を持って「面白くない」と感じるのか。
引用したつぶやきでは「アイドル」と比較されていた。今やアイドルは日本の音楽カルチャーの中核を担っていると言っても過言ではない。
それは売り上げだけでなく、音楽性やエンタメ性も含めてだ。幾つか紹介しよう。
カントリー・ガールズ『どーだっていいの』(Country Girls [I Don’t Really Care]) (Promotion Edit)
「せのしすたぁ」5/28リリース「GROWING」PV_FULL
でんぱ組.inc「でんでんぱっしょん」MV【楽しいことがなきゃバカみたいじゃん!?】
どうだろうか。紹介したのは全て「アイドル」でくくられた音楽だ。音楽性もエンタメ性もバラバラだ。だが、単なる「なんちゃって」ではなく本格的な音楽性やエンタメ性を持っている。それは作曲者やプロデューサーを見れば一目瞭然。様々な才能がそこに関わっている。
ロックに目を戻す。述べたように、ロックにも新しいバンドはたくさんいる。音楽性も様々なのは言うまでもない。
だが、「面白い」のはアイドルの方なんだろう。何が違うのか。
俺の想像で理由を書いておく。
1.熱狂
アイドルのライブ映像を一つ紹介する。
かなりの盛り上がりだ。初めて見るとさすがに面食らう。凄まじい熱量がある。観客の声援もすごいが、それに負けないパフォーマンスがある。
一体となったこの「場」には間違いなく「熱狂」がある。
単に「オタクだから」と片付けてしまえないパワーを持っているように感じる。このレベルの盛り上がりが各アイドルにある。そりゃ盛り上がるだろう。
そこには、ファン側の「盛り上げよう」という意識、アイドル側の「盛り上げよう」という意識。その相乗効果がある。
ロックバンドにそれが無いのか?いや、あるだろう。
っていうかオイオイ言うノリとかはまんまロックがやってたことだろ。
そうして広がった熱が更なる熱を呼ぶ。そうやって高まっていくんだろう。
2.自由度
ロック、アイドルとは別の話だが、アニソン界隈でよく聞かれた言説にこんなのがある。「アニソンファンの人は、アニソンならどんなものでも聞いてくれる。」
今やアニソンも日本の音楽では無視できない、重要な存在だ。
大物作曲家やミュージシャンがプロデュースした曲を声優が歌う。そんな光景は珍しくない。そして彼らは言う「何より聞いてもらえることが嬉しい」と。
逆を言えば、そもそも聞いてすらもらえないような状況が別の方向にあるということだ。
例えばこの曲。『神様ドォルズ』というアニメのオープニング曲だ。ものすごく複雑なリズムに畳みかける歌詞。アニソンたるキャッチーさはあるものの、凄く独創的な音楽に感じられる。こういうのが、オープニング曲として採用されるのも凄い環境だと思うけれども。
興味が無いものは最初から聞かない、そういう経験は無いだろうか。当たりまえっちゃあ当たりまえなんだけれど、数多ある音楽に手軽にアクセス出来るようになった時代では、逆に再生ボタンを押させるのが難しいのかもしれない。
そんな中で、アイドルやアニソンは比較的そのハードルが低いのか。
どんなに冒険しても、音楽的に複雑なものだったとしても、まず「聞く」というハードルを超えてくる。それはアイドルたる少女たちの魅力や、アニメ作品の魅力による影響があるだろう。
そうして聞いてもらえる環境では、何をやってもOKだ。ゴリゴリのメタルアイドルがいきなり出てきても、「結構いいじゃん」って聞いてもらえる。ノイズだろうとヒップホップだろうと同じだ。そういう環境は何より「面白い」だろう。
3.本流と亜流
今日本のアイドル界の中心は何か。
何といってもAKBを始めとした大型アイドルグループだろう。言ってみれば、あれが今の「正解」だ。個性豊かなメンバーに圧倒的に大衆受けするポップな楽曲とイベント。かつてモーニング娘。が構築したメソッドをより強固に大型化したものだ。
そんなAKBが圧倒的存在としてあるからこそ、そのカウンターが成り立つ。
例えばももクロ。メンバーは少なく、楽曲は変化に富んでいる。個人の飛び抜けた魅力でガンガン引っ張るスタイル。AKBと対をなすと言ってもいいと思う。
(例外はいくらでもあるけどあくまでイメージとして)
そう、カウンターが存在し得る状況、これが何より「面白い」んだろう。しっかり優等生がいるから不良がカッコいい。圧倒的強者がいるから、そこに立ち向かう構造が生まれる。そして、それぞれが正当性というか、美学をぶつけ合う。「我々のアイドルはこれだ」と。
例えば東京に対する地方、清純に対する不純、癒しに対する不穏。そうした対立構造の中でさらなる盛り上がりが生まれる。
そういえば、「対バン」という言葉もいつしかバンド界隈よりアイドル界隈から聞こえてくることが多くなった。
ロックとアイドル
こうして振り返ると、一つ考えが浮かぶ。今のアイドルの盛り上がり、それはかつてロックが持っていたものだったんじゃないか。
他には無い熱狂、自由度、そして亜流たる存在。ロックとはまさにそういう存在だった。そして、それをいつしかロックは失っていたのか。
熱狂を失ってノスタルジー的消費の対象になり、「ロック」に縛られ自由度を失い、本流を無くし亜流の存在価値もまた失う。
ロックはいつしかロックファンだけが聞くものになる。バンドも、ファンに向けて聞かせ続ける。 広がるかに見えた熱狂も、何か別のものに取って代わられる。
ベストロックアーティストという賞をR&B歌手が受賞するのが当たり前の欧米では、そもそもジャンル分けがほぼ無いと言ってもいい。もっとシンプルに熱狂を享受している。
まあもちろん昔ながらのロックバンドもいて、「こんなもんロックじゃねえ」的な言論もあるんだけどさ。
とはいえ、「面白い」ものが正義ということだ。
いつからか、日本のロックにおいて「面白い」ことが第一義でなくなった。新しい「面白さ」に対して「正当性」を持ち出して否定していた。そう個人的には思える。
「正しいこと」が大事であると。そしてその「正しさ」を振りかざしていろんなもんを潰してきたように思う。最近再評価されてるORANGE RANGEとか。
気づけば、「面白い」音楽の座はアイドルやアニソンに取って代わられてしまった。そう思えてならない。
っていうかそうしてしまったのは他ならぬ俺含めた消費側じゃねえかって気もする。
改めて言うが、俺はロックが大好きだし、新しいバンド達も楽しんで聞いているつもりだ。
でも、ラップバトルブームでファン層を拡大したヒップホップや、DTM文化の発達でより身近になったエレクトロ、そしてもちろんアイドルなどと比べると、やっぱ勢いは現状少し後退しているように感じる。
もちろんがっつり聞けば、作曲の工夫や歌詞の妙など「面白さ」を見ることはできる。でも、そんな重箱の隅をつつくような聞き方をしなきゃわからん「面白さ」って?
SEKAI NO OWARIのボーカルが「まだギターロックやってんの?」とインタビューで発言して炎上していたが、あながち間違いじゃないのかもしれない。
ギターロックバンドは多分無くならない。が、そこに昔と同じ役割を求め押し付け続けようとする限り、ロックはつまらない「死んだ」音楽でしかない。
シワシワになったロックスターの、再現されるだけの熱狂に満足して「ロックはまだ大丈夫」なんて言ってられないんじゃないか。鏡を見れば、自分ももうオヤジになっている。
いつしか「正しい」音楽ばっか求めるようになってなかったか俺は。
前にも書いたが、そうしているうちに「面白い」ものを感じる力が弱くなる。それは老いというより、衰弱だ。
でもまあリスナーとして、それでもいいのかもしれない。
少なくとも、何か義務があるわけじゃない。ここで終わりにしてもいい。
ただ、可能性があるのなら、まだ「面白い」ものに出会う力がちょっとでもあるなら、もうちょっと頑張ってみたいなと思う。
若者ってのはそういう面白さに敏感だったりするんだよな。
逆を言えば、「何が面白いかわからん…」って思ったら音楽に原因があるんじゃなくて自分に原因があるかも、と考えた方がいいかもしれん。
そうして出会ったものが、やっぱりロックだったらちょっぴり幸せだし、全力で応援したい。
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「なんでそんなにいっぱい音楽聞くの?」ってよく聞かれるのでいろいろ書いてみた。要するに「面白いもの」が山ほどあると信じている、信じたいってのがあるんだろうな。
でも、それが必ずしも俺が望む「面白さ」では無いということをキチンと受け入れようということ。
そして、自分自身で「面白いはずだ!」みたいに誤魔化して若者ぶることもないように。
それと好き嫌いはまた別で。