吐き捨て系日記

もう30になっちゃう男が考えを整理するためにブツクサ綴る、ほんとにただの日記です。

【ネタバレあり】シン・仮面ライダー(2023)感想

半年近く放置してたけど、久々に映画見たので感想を。

庵野監督のシン・シリーズ最新作。
公開翌日に早速見てきた。

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正直、シン・ウルトラマンは個人的に賛否の否の方だったのもあって見る前は結構不安だった。
言うまでも無く、庵野監督が凄い「オタク」ってのは分かり切ってる話で、それがどう表現されるのかということ。

ウルトラマンの場合、俺の好きなとこと庵野監督の好きなとこってかなり違うなってのもあり、映画的な良し悪しもあってトータルで否って感じだった。


それが仮面ライダーでも出そうだなあ、という予感は見事的中してしまった。
というわけで今作も個人的には賛否の否で。

世間的にも賛否両論という雰囲気ではありそう。

最初に言っとくと、「庵野監督の方が仮面ライダーを分かってるんだ!お前なんかガー!」みたいな、オタクの愛アピール合戦みたいなのはちょっと正直キツイ。

「全体は○○点だけど、○○があったから一億点!!!」みたいなのも。
昔は真似してやってたこともあったが、これよく無いなと思って辞めた。

ここ数年でそういうノリ自体にかなり冷めてきてしまっている。

まあそんな話は置いといて肝心の映画の話をします。





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”怖くない”ショッカー

特撮ヒーローにおいて「恐怖」ってかなり大事な要素だと思っている。
子供向けで、尚且つ等身大のヒーローであれば尚更そう。


もしかしたら自分も怪人に襲われるかも、こんな怖い目にあってしまうかも。
そんな恐怖から救ってくれるヒーローという構図。
怪人が身近であればあるほど怖く、だからヒーローがカッコいい。

これはシン・ゴジラの頃から雰囲気はあったんだけど、その「敵が怖い」って部分の描かれ方がウルトラマン仮面ライダーと題材が移っていくにつれ顕著に薄くなってきている。

シン・ゴジラが名作だったのはゴジラがちゃんと「怖かった」って部分もかなり大きい。
描写として一般市民の被害描写はかなり薄いものの、東日本大震災という日本人ならほぼ全てが目の当たりにした恐怖体験とリンクさせることで「恐怖」の部分が効果的に強調されていた。
広がる放射能、燃え盛る街、その光景だけで見た人は自分の事として受け取ることが出来る構造になっていた。


今作の場合、ショッカーが市民に対して悪さしてるって描写が極めて薄い。
コウモリオーグに洗脳された人が泡になったとか、ハチオーグに操られた人がゾロゾロ歩いてたりと一応あるにはあるのだが、そもそも普通に生きてる人間が全く出てこないので被害者って感じも全然しない。

ラスボスの一郎も「全人類のプラーナを~」ってデカイ話してる割にやってることはイスに座って虚ろな表情してるだけだし。

さらに、ウルトラマンの時には出てきた国の描写とかもほぼゼロ。
国から派遣された竹之内豊と斎藤工がそれっぽい振る舞いしてるだけで、国がショッカーをどう捉えてるか、どういう被害があるのか、みたいなのが一切無い。

ショッカー怪人の見た目もスタイリッシュなメタルマスクになってるので、見た目の怪奇性も無く、ひたすらライダーバトル見させられてるみたいな印象。

本郷は終始「誰かを守りたい」って言ってるんだが、肝心の守るべき人々が出てきて無いし、守るほどショッカーって怖いか?という。

守りたいのは結局ルリ子だけだじゃん、って見えてしまう。
そのルリ子も一人で怪人に立ち向かって気絶、ってのを何回もやるし(一回目はワザとだけど)。
唐突に出てきたカメレオンカマキリに刺されて死ぬし。
そこでようやっと感情を露にして大泣きするわけで、やっぱルリ子だけじゃん、一般ピーポーどうでもいいじゃん、って見えてしまうよ。


本郷と一郎は通り魔に家族を奪われたという共通した過去があり、そこで運命が二分し、悪に堕ちた一郎と善に生きた本郷、という対比ではある。
ただ最終的に一郎が「悲劇によって歪んでしまった、実は優しい男」みたいな、よくある悪役像に回収されてったのも個人的にはうーん…。

物語が進むにつれ、強大な力を持つ謎の秘密結社ショッカーとの対決、という話が身内家族のトラウマ話というスケールが極端に小さい話になっていったのはかなり残念。
ここにきてまたセカイ系かよ、っていうね。

というわけで、ライダーたちはやたら必死に戦ってはいるが非常に狭い世界の話に見えてしまっているし、一観客としては終始彼らの外側に置かれている気分になってしまった。

見えにくいアクション

アクションシーンのクオリティについても。

まず冒頭のバトルでは血しぶきが飛びまくって「ライダーのパワーすげー」って見せたいのは分かるんだけど、肝心のヒットシーンが高速カットでアップになりまくるので何が起こってるのか把握しにくい。

こういうのハリウッドのアクション映画とかでもたまに見かけますね。


そんで中盤での二号とのバトル。
これ雰囲気は良かった。

等身大の超人が高速で走り、飛びながら戦うってのを実際に描くとこうなるんだぞっていう。
ただその殴り合いが空中で静止しながら両手を前後前後してるだけの、ドラゴンボールもビックリの手抜きだったのが残念。


ショッカーライダーとの戦いはもう最悪。
暗闇で光る眼、ってのを見せたいのは分かるけどあまりに暗すぎ。
その上定期的に、やたら画面いっぱいに爆発が起こるのでチカチカして見てられない。
初代のオマージュとか云々以前に映像として質が悪すぎる。


ラストバトルはもう、何がしたかったのか。
森山未來コンテンポラリーダンス感を強調した0号のアクションはカッコイイと言えばそうなんだが、殺陣がワンパターンだしフラッシュは相変わらずキツイし。

そんで急にパワー使いすぎたとか言い出して、くんずほぐれつのグダグダレスリングが始まる。
その取っ組み合いも目的が不明瞭というか、マスクを外したいなら積極的にマスクを目指せばいいものを、セリフを言わせたいがためにただただ組み付いて離れて、それでひたすら尺が長い。

そんで合間合間に初代のオマージュですよ感全開な、昭和特撮っぽいカットが挿入されるから非常にチグハグな印象。

どっちかにしてくれよ、と思う。

悩む男、本郷

いやいや、ライダーの本質は孤独と苦悩ですよと言い出す人もいるだろう。

人ならざる姿と力を無理やり与えられ、それによって孤独に苦しむ本郷というのは原作から描かれてるテーマであり、仮面ライダーの中心でもある。

じゃあ今作の本郷は?というと変身前から孤独であることが語られる。

父を早くに亡くし、そのせいか「コミュ障」として就職にも失敗する人間であると。


確かに終始声色は低テンションで無機質だ。
しかしその割には積極的にルリ子に話かけまくるし、オーグ退治にも自ら進んで赴いていく。
ツーリングしてソロキャンプするのも好きらしく、バイクは孤独を楽しめるぞ的なことも確か言ってた。
いや、孤独楽しんでるじゃん。

敵を殺して苦悩していますよ、ってカットは定期的に入ってくるがホントに悩んでるようには見えない。
そもそも敵怪人がやたらトリッキーなキャラ付けをされてるせいで同じ作品の人間には見えてこない。

「これがこいつの口癖です!みなさんSNSで真似して大喜利してください!」と言わんばかりの浮きまくったワード連呼。

長澤まさみのサソリに至ってはマジでなんだアレ。
ニチアサの方が遥かにまじめに怪人作ってるぞ。

ショッカーが「人を幸せにするのだ!」という歪んだ目的を持った組織、と語られるもののやってることは一方的に他者を加害、支配するだけなので、わざわざ「幸せ」ってキーワードを付けたす必要があったのか。

本郷君の幸せは他人のために命をかけて戦うことなのだ!父の死を乗り越えて、最後にそれに気づいたのだ!ってことですか。

本郷は「力があれば人を救えた」という、過去のトラウマに由来する行動指針を持っており、それゆえに改造を受けた。
ある種望み通りに力は得たが、それを振るう度に苦悩する。

そして最後、力を振るうことではなく誰かのために命をかけること、それが父親が行ったことであり、自分がやるべきことだったと気付く。
0号にルリ子の遺言を届け、一文字に後を託し、満足そうに消えていく。


でも、命を懸ける行為そのものと「幸せ」を繋げるのはかなり危険だと思うけどなあ。
彼は幸せだったのです、っていう終わりでいいのかそれ。

こうして最後の最後に本郷は、ルリ子の言う「覚悟」を持って誰かのために戦う本物のヒーローになったのです!というまとめ方なのかな。

にしては話の作りから描き方から回りくどすぎるよ。

悩まない男、一文字

そんな本郷に対して、2号ライダーの一文字は行動原理がかなり明快で分かりやすい。

分かりやすいというのは、そのまんま口に出してるせいでもあるが。

「俺は好きかどうかで物事を決める」
「つるむのは好きじゃない。だから一人でショッカーと戦う」
「誰かとつるむのも好きになるようにするぜ!」

非常に分かりやすい。

戦闘中も軽口を叩きつつ、最後はしっかり(頭突きを)決めてくれた。


戦闘シーンの出来もあってキャラとしてはかなり人気らしい。
本郷からマスクを受け継ぎ、ライダーとして生きていくことを決め、新しいサイクロン号で去っていく。

キャラクターとしてケチ付けるとこが無いっすね。
本郷が何考えてるか、何をしたいかイマイチ分かりにくいってのもあって余計にそう思う。

そんなに人間が嫌いか、庵野

庵野監督作品に共通している、一般人の少なさ。
そして登場人物たちへの過剰とも言えるキャラ付け。
全てを口に出して説明するが、肝心なとこは何も言わない演出。


庵野監督の特撮好きは有名だが、それを踏まえてこれら作品の傾向を考えると、特撮に出てくる子供達や一般人を邪魔だと思ってたんだろうなあ、っていう感想になってくる。


ウルトラマンと怪獣さえ見れればいい、ライダーと怪人さえ見れればいい。
「キャラクター」が見れればよくて、それらが生きる「社会」はどうでもいい。

そんな極端な愛し方なんだろうなっていう。


そんな偏愛を感じ取りつつ「分かる!分かるよ庵野!」って誰よりも監督に感情移入するタイプの観客なら楽しめるんじゃないかな。


女性に恥ずかしいセリフを言わせたり、ヘンテコな行動をとらせたがったり、おじさんが若ぶったような妙なセリフ回しだったり、それを庵野節として愛好する人もいるんだろう。
ただ個人的にはもうそういうのがキツくなってきた。

いつまでチョケてんだよ、というイライラの方が強くなってきてしまった。

まとめ

俺にはもう庵野作品は合わないとハッキリわかった。
そんな一本でした。